ナマちゃん

　ウチの近所に、家の中のガラクタや衣類を適当に並べて売っている「なんとなく店」みたいな家がある。今日そこを通りかかると、窓に「良いものを安く手に入れ賢い私！」とか、「安すぎて心配？！」とか書いた紙（去年の皇室カレンダー再利用）がベタベタ貼ってあって、いつになく危険な雰囲気だったので、ちょっと入ってみた。
　店内（っていうか玄関）には誰もいない。品揃えは、古い紙粘土のブローチとか、シミのついた風呂敷とか、微妙な猫キャラのビニールバッグなど不要度が高いものばかりだったが、見ようによってはダサかわいいベストが破格の200円だったので、部屋着に買うことにした。「すいませーん」とお店の人をよぶと、ややあって「ナマちゃん？　ナマちゃんかしら？　ナマちゃんね？」という声が聞こえた。
　やばい、狂人が出てくる！と一瞬戦慄が走ったが、出て来たのは意外とふつうのおばあちゃんだった。「ナマちゃんじゃない…」と数十秒ほど放心していたが、一応ちゃんとベストは売ってくれた。おばあちゃんは私が試着をせずに服を買う（200円だしね）ことにはげしい憤りを感じているらしく、「ちいさかったらどうする？　どうする？」としきりに聞いてきた。私が「いやー、たぶん大丈夫ですよ。ははは」と言うと、「そうおー？」と不満げにベストをタコのつくだ煮の紙袋に入れてくれた。店を出るときなぜか「おつかいご苦労様〜」と言われた。
　ウチに帰ってベストを着てみたら予想以上にダサかわいかったので外でも着ようと思います。